和紙の原料

紙は、植物から作られます。私たちが普段使う洋紙は、主に針葉樹や広葉樹の幹を原料(パルプ)にします。
ところが、和紙は、木の皮を原料にします。

和紙の原料となる主要植物には、コウゾ、ミツマタ、ガンピがあります。
これらの植物が使われる理由には次のことが考えられます。
1.入手(栽培)しやすい。(ガンピは栽培困難)
2.繊維を取り出しやすい。
3.繊維がたくさん取れる。
4.これらの植物でできた紙は使いやすい。
5.紙が美しい。

コウゾ:クワ科[Broussonetia kazinoki × B. papyrifera]

ヒメコウゾとカジノキの交配種だといわれています。成長が早く、栽培しやすいため、古くから和紙原料に使われています。
和紙原料の中で最も多く使われていることから、和紙といえばコウゾの紙を思い浮かべるほどポピュラーな原料です。
繊維が長く強靭なことから、書画用以外に障子、番傘、表具、提灯、行灯、合羽、紙子(衣類)などに使われています。

ミツマタ:ジンチョウゲ科 [Edgeworthia chrysantha]

江戸時代頃から和紙原料に使われるようになりました。枝が三つに分かれることからミツマタの名がつきました。 ミツマタの繊維はコウゾに比べ光沢があり、薄オレンジ色をしています。
書画、写経料紙として使われるほか、滑らかでしなやかな紙質が金箔や銀箔を出荷するときの箔合紙に最適です。

ガンピ:ジンチョウゲ科[Diplomorpha sikokiana]

奈良時代頃から和紙の原料として使われ始めました。繊維は緻密で光沢があり、粘り気を多く含んでいます。ガンピが使われ始めたころは、コウゾの補助原料としてコウゾに混ぜて使われていました。その後独立した和紙原料になりました。栽培できないため、山野に自生するものを集めなければなりません。自生地域も限られることから、生産量は少なく、高級な書画用紙として使われています。特殊な用途としては、金箔などを製造するときの箔打紙があります。

アサ:タイマ(クワ科)、チョマ(イラクサ科)、アマ(アマ科)、 マニラアサ(バショウ科)、コウマ(シナノキ科)など

アサとは、植物のアサ以外にも繊維の採取できる植物を指す言葉として使われます。そのため色々な種類があります。 紙は、ぼろ布や使い古された魚網など、アサ製品のリサイクル品として誕生したと考えられています。紙すきが日本に伝わったころは、アサが原料として使われていました。ところが、アサは繊維を取り出しにくいことから徐々に使われなくなりました。現在は、主に日本画用紙として使われています。

その他:ワラ、タケ、古紙など

これらの植物は、成長が早くても繊維を取り出しにくく、しかも紙質に劣ることから徐々に使われなくなっています。 忘れてならないのは古紙です。和紙はリサイクルできるので、使い古された和紙も大切な原料になります。

その他:ワラ、タケ、古紙など

これらの植物は、成長が早くても繊維を取り出しにくく、しかも紙質に劣ることから徐々に使われなくなっています。 忘れてならないのは古紙です。和紙はリサイクルできるので、使い古された和紙も大切な原料になります。

和紙の特長

トロの登場と流し漉き(ながしずき)

和紙の技術的な特徴は「流し漉き」です。これは、紙漉きのときに簀桁(すけた)を前後左右に揺り動かしながら水を濾過するもので、トロロアオイなどから抽出したトロという粘液を混入することで生まれました。
流し漉きの始まりは、奈良時代頃だといわれています。紙漉きが日本に伝わった頃は、コウゾやアサが原料でした。当初は単純な処理方法で繊維を取り出していたと思われ、繊維には粘り気が含まれたままになっていたと考えられます。その粘り気のおかげで比較的強く良い紙ができていました。ところが、よりきれいな紙を漉こうとするあまり、処理が高度化し繊維に含まれる粘り気も失われてしまいました。そのため紙質も落ちてしまいました。紙質の低下が粘り気にあると気付いた職人は、当時薬として渡来したトロロアオイの粘り気に着目し、その粘液を抽出し原料とともに加えることを始めました。このことで、和紙の特徴である流し漉きの技法が生まれました。
トロを加えないで紙を漉くと、水は簀桁からすぐに抜け落ちてしまいます。残った繊維のシートは均一な厚さにならず、しかも繊維同士の絡み合いが少なく、紙質の劣る紙になります。ところが、トロを加えると、水が抜け落ちるのに時間がかかります。早く水を落とそうとして簀桁を前後左右に揺り動かすようになりました。簀桁を動かすと、汲まれた原料液が簀桁の上で流れるように行き来します。この様子から流し漉きと呼ばれるようになりました。

トロの効用

繊維の沈殿を防ぐ
和紙の原料繊維を舟と呼ばれる紙漉き用の水槽に入れます。そこにトロを加え、よくかき混ぜます。できたものを舟水(ふなみず)と呼びます。トロの粘りは、繊維一つ一つを包み込み、舟水の繊維を沈殿させず浮遊させます。
このことで、簀桁で舟水をすくい込むときの繊維の濃度が一定に保たれます。正確には、紙を漉くたびに舟の繊維量は減るのですが、大量にある中の一部ですからある程度一定に保たれます。

水がゆっくり濾過される
簀桁上の水は、トロの粘りによりゆっくり濾過されます。つまり、簀桁に長時間水が留まることになり、揺り動かすことが可能となります。

繊維の絡みを助ける
揺り動かされた舟水は、徐々に水がろ過され繊維が複雑に絡み合いながら積み重なってシート状になります。動かずに単純に積み重なるよりも丈夫な紙になります。さらに、表面が均一になり滑らかに形成されます。

厚さの調整を助ける
舟水がゆっくり濾過されることで、簀に蓄積される繊維を確認しながら紙を漉くことができます。つまり、好みの厚さに調整することができるようになります。

生産性を上げる
和紙は、漉き終えた後に紙床(しと)に移し積み重ねます。重石をして水を絞った後に一枚ずつはがしますが、紙同士がくっつくことはありません。これは、トロの助けで繊維同士が複雑に絡み合ったものと、絡まずに重なっただけのものとの違いによります。
紙床に直接重ねることで、間に仕切りを入れるなどの作業がなくなり生産性が向上します。

トロを採取できる植物

トロロアオイ:[Abelmoschus manihot] アオイ科
多くの産地で使われています。トロは、根を砕いて水に浸し抽出します。。

ノリウツギ:[Hydrangea paniculata] アジサイ科
樹木の表皮と幹の間にある内皮をこそげ取り、水に浸して粘液を抽出します。トロロアオイに比べやさしい粘りです。主にガンピ紙を漉く産地で使われます。山野に自生しています。

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